「最期まで自宅で暮らしたい」と望みながらも、多くの人が病院で最期を迎えているのはなぜか。自宅で最期まで過ごすのは無理だと思っている、あるいは病院の方が長生きできると思っている人も多いだろう。しかし実際には、お金がなくても、ひとり暮らしでも、誰でも最期まで家で朗らかに生きることができ、自宅に帰ったことで余命が延びた人までいる。このたび、そんな奇跡と笑顔のエピソードが詰まった『なんとめでたいご臨終』を著した在宅医療の医師・小笠原文雄さんと女優・室井滋さんの対談が実現した。
室井:自宅で穏やかな最期を迎えるためには、今から周りの人とのつながりとか、家族関係を考えておいた方がいいのでしょうか。
小笠原:大勢の人とつながりがあるといいけれど、最低誰か1人とつながっているだけで、心と身体は暖かくなります。1日1回、電話をかけてくれる人、訪ねてくれる人がいれば、生きていることを実感できます。ぼくは1000人以上を在宅で看取りましたが、そのうち54人がひとり暮らしのかたでした。おひとりのかたでも、家で穏やかに最期を迎えることは充分可能です。
室井:私の友達に独身のおばさんがいっぱいいて、みんなひとり暮らしで働いています。今後どうするかという話になると、「今から結婚して姑の介護をするのは嫌だし、だいたい部屋にずうっと男の人がいることががまんできない」と言うんですよ。「自分の好きなときにしか会いたくない」って(笑い)。ひとり暮らしに慣れているから、病院なんか絶対嫌だって、みんな言っています。
小笠原:そういう人はひとりがいいに決まっています。それなのに、ひとり暮らしの人を放っておいて亡くなったら孤独死じゃないかといって、家族がヘルパーさんを入れたり、看護師を派遣したりする。すると笑顔が消えるんですよ。だから周囲の人には、その人をひとりで放っておいてあげる勇気も必要なんです。
室井:友達は「私がいてくれればいい、困ったら連絡する」と言っています。もっと年を取ったら、みんなで私の家に住もうと勝手に決めているみたいなので、えっ、うち!?と思っているんですけど…(笑い)。