6月のとある週末。東京・浅草駅から徒歩で20分ほど歩いたところにある『今戸神社』には、朝9時から、全国から駆けつけた女性たちが、その鳥居を次々にくぐっていった──。
今戸神社の創建は1063年。源頼義、義家父子が奥州討伐の際、ここに同社を勧請した。その後「沖田総司終焉の地」「招き猫発祥の地」としてその名を馳せ、10年ほど前からは「縁結び」のパワースポットとして熱視線を集めている。
それにしても、もともとは「武運長久」を祈願する神社だったのに、同社内にある絵馬には恋の願かけがズラリ。しかもそこには、神様へお願いしたい“条件”がしっかり記されているものが多かった。例えば、こんなふうに。
《この夏までに素敵な彼氏を作って、毎日楽しくてキラキラした生活を送りたい》
《お金持ちでそこそこイケメンで優しい、ユニークなすてきな人に出会えますように。電撃婚でお願いします》
どうしてこんなことになったのか? その鍵を握るのが同社の宮司夫人・市野惠子さん(66才)だ。2008年10月から始めた「縁結び会」の登録者は今では8000人。これまで70組を成婚に導いたことから、「人間パワースポット」とも呼ばれている。
「ンフフフフフ。私が引き寄せるんですよ、ビビビ力(りょく)で。神様が喜ぶことだけを考えて、素直に生きてると、直感力がつくんですよ。私はそういうのをみなさんに教えたいの! ウン! きれいなアンテナを出すための説法をするから、ほかの縁結びの神社とはちょっと違いますね。ンフフ」
では、どうやったらフツーの人でもビビビ力はつくのか?
「感謝の気持ち。地球に住まわせてもらってる、生かされている、神様、ありがとうの思い。言霊だから、言えば言うほどいいことあるわよ。ンフフフフフ。女子会はダメよ。女同士で集まると、悪口ばっかりで人相が悪くなるいっぽうなんだから。それなら神様にたくさん愚痴って、最後に『聞いてくださってありがとうございました』っていう方が、ずっと運を引き寄せます」
軽やかな笑顔を浮かべながら、少し高めの声で歌うように話す惠子さんの表情は、くるくる変わり、見ているだけでほんわか幸せな気分になってくる。
しかしその原点を聞くと、「私ね、もらい子だったの。生後10か月の時に、この神社にやってきて、はっきりいって苦労したわね」と、そのキーの高い声とは裏腹の、重~い過去を語り出した。
「両親はちゃんと私を飲み食いさせてくれたし、学校にも通わせてくれたけど、う~ん…愛情はイマイチだったかな。最期まで私のことを認めてくれなかったし、残酷ですよ。愛に飢えて育ちました。でも、ねっ、親がそういう親だったから、私自身が努力したんです。いろいろあるでしょ、人間界って。すべて学びですよ。今の私があるのも、親を反面教師にしたからで、だからそういう意味では感謝してるの。
6年くらい前に親が亡くなったんだけど、その頃からかな、ビビビ力が冴えてきたんですよ。ンフフフフ。あら、あなた、感じるわ、感じるわよ」
そう言うと惠子さんは、急にジッと記者(43才・独身・彼氏ない歴4年)を見つめて続けた。