さまざまな選択肢がある時代、どのように最期を葬られたいかも多岐にわたる。土に還るのが樹木葬だとしたら、海洋散骨は、海に還るというもの。お墓をどうしよう――悩みを抱えた人たちの間で近年注目を集めるクルージング船に、ノンフィクションライターの井上理津子氏が同乗した。井上氏はこれまでに「樹木葬」「室内墓」「永代供養」「女性専用墓」など、多様化する現代のお墓事情をリポートしてきた。今回は「海洋散骨」だ。
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現代のお墓事情について紹介する中で、読者からさまざまな感想をいただいた。
当初は「先祖代々のお墓を継がないのは、勝手すぎる」「どんなにきれいでも、マンションのようなお墓には抵抗感がある」といった声が少なくなかった。しかし、次第に「お墓を選べる時代になったのは、喜ばしいこと」「夫婦墓、個人墓に共感する」といった声が増えてきた。そのような中で、とりわけ強い印象を受けたのが、この3人の意見だ。
「足場の悪い山の共同墓を、ため息をつきながら守っているヨメの立場の私には、新しいお墓はどれも夢の夢です。私自身はいつか海に撒いてほしいとこっそり娘に頼んでいます」(49才・主婦・京都府)
「自動搬送式の室内墓も樹木葬もいいなと思いましたが、私は海に散骨を希望。1か所に閉じこもるより自由度が高く、エコな上に気持ち良さそうだから」(56才・会社員・神奈川県)
「秋川雅史さんが歌って大ヒットした『千の風になって』と同じ思いです。なので、私はお墓には眠りたくない」(65才・主婦・東京都)
「散骨希望」「お墓不要」、そのリアルを紹介したい。
6月初旬の週末。晴れ渡る空に、白い雲。初夏の日差しのその日、朝潮小型船乗り場(東京都中央区晴海)で、40人乗りのクルーザーに乗り込んだ。株式会社ハウスボートクラブ(東京都江東区)による海洋散骨サービス「ブルーオーシャンセレモニー」の1つ、「合同乗船散骨プラン」に同乗したのだ。
乗船後すぐに、船長から挨拶があった。
「本日はブルーオーシャンセレモニーをご利用いただき、ありがとうございます。これより出航いたしまして、レインボーブリッジの下から京浜運河に入り、本日の散骨スポットの羽田沖へと向かいます。散骨スポットは、北緯35度33分、東経139度48分。到着は13時50分頃を予定しています…」
散骨の場所が正確に決まっていることに驚く。エンジンがかかり、クルーザーはゆっくりと桟橋を離れる。
船内には、5組13人の“乗客”がいた。中年や年配の夫婦、おそらく40代の男性2人組、「おじいちゃんと20才くらいの孫娘」と見受ける2人を含んだ一家ら。喪服の人はおらず、みな、カジュアルな服装である。