「最期まで自宅で暮らしたい」と望みながらも、多くの人が病院で最期を迎えているのはなぜか。自宅で最期まで過ごすのは無理だと思っている、あるいは病院の方が長生きできると思っている人も多いだろう。
しかし実際には、お金がなくても、ひとり暮らしでも、誰でも最期まで家で朗らかに生きることができ、自宅に帰ったことで余命が延びた人までいる…このたび、そんな奇跡と笑顔のエピソードが詰まった『なんとめでたいご臨終』(小学館)を著した在宅医療の医師・小笠原文雄さんと、女優・室井滋さんの初対談が実現した。
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室井:本の中で、先生が患者さんから「そろそろ死ぬのかな?」と聞かれて、「死ぬかもねぇ」と答える場面があって、すごい会話だと思いました。こんなことが言えるのは素晴らしいですね。だって怖がっていたって、みんないつかは死ぬわけですから。
小笠原:出張先のドイツから患者さんに電話して、「あれっ、あなた、まだ生きてるの?」「先生を待っていたけど、旅立つわ」と笑い合ったこともありました。結局、その患者さんはぼくが帰国するまで生きて、おみやげを渡すことができました。
室井:でも、「あなたはあと1週間で死にます」みたいなことは、誰がどんなふうに伝えるかが、すごく重要でしょう?
小笠原:心が通っていない人、気が通っていない人が言ったら、それこそ大変なことになります。ぼくたちもいきなりは言いません。心が通って、笑顔になってから話します。
室井:どんなふうに話すんですか。
小笠原:例えば、病院に入院していて、痛くて苦しくて一晩中眠れない人がいたら、緊急退院してもらって、腹をくくって2時間ぐらい話をします。最期が近いこと、在宅での緩和ケアについても説明します。その日のうちに笑顔にするのがわれわれのモットーです。目を見て、手を握ってゆっくりと時間をかけて話すと、ほとんどの人は笑顔になります。
室井:手を握るんですか。
小笠原:必ず握手をして、その時、人差し指を伸ばして、さりげなく脈をとります。すると馬が駆けるような音なのか、やわらかい音なのか、緊張度はどうなのか、気が感じられます。その気に合った話し方で、余命を伝えます。
室井:なるほど。
小笠原:自分が死ぬと覚悟しないと、長生きできないんですよ。死があるからこそ生が輝く。そのことに気づいて、ぼくは「あなたは死ぬんだよ」とちゃんと言えるようになりました。 生きている間に子供に遺言を伝えるとか、1週間後、2週間後の具体的な目標を決めると、それだけはやり遂げようと生きる力がわいてきます。がんでお腹がゴリゴリしていたのに、消えてしまった人もいました。
室井:本に載っていましたね。びっくりしました。本当に不思議です。
小笠原:副院長が「奇跡だ、奇跡だ」ととんできたけど、その時はぼくもびっくりしました。常識では語れないようなことが在宅医療の現場では起きるんです。
◆涙を流しながらも「よかった、よかった」
室井:先生はこの対談の中で気という言葉を何回か使っていますけれど、人間は気に左右されることがありますか。