人類と、その祖先である類人猿は、直立二足歩行できるか否かによって区別される。4本の足で地面をつかんで移動するのではなく、直立二足歩行を行うことによって、ヒトは2本の手を移動手段から解放した。そして、指先などを大いに活用し、道具を作り、高度な頭脳とともに文明を進化させた。
一方、直立二足歩行はヒトに試練も与えた。腰痛や膝などの不具合である。ヒトの体で地面と唯一接しているのは足裏だけだが、その面積は体全体の表面積の約2%にすぎない。2本の足だけで体の重さを支える分、その負担は足腰に集中した。負担は、加齢による体力の衰えとともに増す。
足腰が弱ると、自力で歩くことが徐々に困難になる。行動範囲が狭まると、気分が塞ふさぐ。肉体・精神、両面の衰えがやがて生命そのものを脅かしていく。それほど、歩くことは、とりわけ自力で歩行することは私たちにとって重要なのだ。
「旅行好きの母と妹ですが、母は足を患っている妹を介助して、旅先でもできる限り歩かせるようにしてきました。しかし、その母も75才を超えて介助が大変になっています。その姿を見て、何とかしてあげたい、と思ったことも開発に励んだ一因です」
そう語るのは、『無重力歩行アシスト aLQ(アルク)』の開発に携わった、名古屋工業大学の佐野明人教授(電気・機械工学専攻)だ。佐野教授は、15年以上前から受動歩行ロボットの研究に携わってきた。
ロボットというと、コンピューターや電気制御装置など電力を伴うマシーンを連想するかもしれないが、佐野教授が追い続けてきたのは“無動力”の受動歩行ロボットだ。モーターも付いていなければ、充電も必要ない。バネの力を利用して、エネルギーを蓄積したり解放したりする仕組みだ。その仕組みを応用して、aLQは開発された。
共同開発の重要なパートナーとなったのが、今仙電機製作所(本社・愛知県)だ。同社は車の部品(シートのリクライニング機構など)の生産が主流で、そのグループ会社の今仙技術研究所では、義足や電動車イスなどの開発・生産が行われている。福祉機器を手がける同所の技術と佐野教授の理論が組み合わさったことにより、画期的な歩行支援機が生まれた。
初号機の共同開発がスタートしたのは約6年前。以来、バネと振り子の原理を応用した製品開発が続けられ、aLQの前身となる「ACSIVE(アクシブ)」が3年前に産声を上げた。同製品は福祉用で、脳血管障害による片足麻痺の人などの歩行の助けとなった。そして、ACSIVEが世間に受け入れられるにつれ、介護を要しない人に向けた製品開発を求める声も増えてきた。
初号機以来、一連の開発に際しては、足に不自由を抱える人やその家族のかたがたを対象とした試着や試し歩行が何度も重ねられた。佐野教授自らも機器を身につけて電車に乗ってみたり、都会の雑踏を歩いてみたり、トイレを想定しての着脱を試してみたり、とさまざまなシチュエーションで試用した。そして、思い至った。