6月26日の増田康宏四段(19才)との対戦で、前人未到の公式戦29連勝を達成した最年少プロ棋士・藤井聡太四段(14才)のフィーバーが止まらない。7月2日の佐々木勇気五段(22才)との対局で敗戦。連勝記録は29で止まったが、一躍時の人となった。
そんな幼き藤井四段の才能を見抜いて実力を何段も引き上げたのが、地元の将棋教室「ふみもと子供将棋教室」を運営する文本力雄さん(62才)だ。藤井四段は5才の時、育子さんに連れられて初めて将棋教室にやってきた。
「丸いおでこに、赤くぷっくりしたほっぺたがかわいらしい幼稚園児でしたね。いつも『藤井聡太です。今日一日よろしくお願いします』と元気よく教室に入っていました」
そう振り返る文本さんが驚いたのは、藤井四段の類希なる記憶力だ。幼稚園児ながら、最初に手渡された分厚い将棋の教科書を1年ですべて覚えたのだ。研究熱心さも群を抜き、それまで週3日だった将棋教室は藤井四段の希望で週4日になった。皆勤賞の藤井四段が熱中したのは、文本さんが推奨する「目隠し将棋」だった。
「将棋盤を使わず、頭のなかで駒を配置して展開する練習法です。私が『七六歩』と言ったら目を閉じた聡太が『八四歩』と応じて対戦する。この訓練により、記憶力と集中力、さらには想像力が養われます」(文本さん)
藤井四段は「目隠し将棋」が大の得意で、慣れたら電車のなかでも目を閉じ、“そこにない駒”を指していた。文本さんの的確な指導で藤井四段の実力はぐんぐん伸びていく。
「幼稚園の時から“この子は違うな”とわかった。将棋教室を開いて19年ですが、たった1年で教室独自の段級位制で20級から4級まで昇格したのは、後にも先にも聡太だけです」(文本さん)
藤井四段のように若い頃から将来を嘱望された棋士は実は少なくない。
「過去40年で、若くして台頭した代表的な天才棋士は谷川浩司(55才)、羽生善治(46才)、藤井聡太の3人です」
そう話すのは、小学校低学年から藤井四段を見てきた将棋ジャーナリストの鈴木宏彦さんだ。3人の共通点について、鈴木さんが指摘する。
「3人とも親が将棋を指さない環境で育ちました。全員、自分から将棋に興味を持ってのめり込んで行ったのです」
天才卓球少女として知られた福原愛(28才)を筆頭に、アスリートの世界では、幼少期から親が熱心に指導するケースは多い。だが現在160人いるプロ棋士のうち、親がスパルタ指導して成功した人間はほとんどいないという。