将棋界の “藤井フィーバー”が止まらない。ただ、対局時に注文する食事メニューや通っていた幼稚園の教育法にまで注目が集まる一方、この14歳のプロ棋士について、羽生善治の「羽生マジック」のような、将棋の強さを表現するフレーズをほとんど目にしないのが現状だ。その「強さの正体」はどのようなものか。将棋ライター・松本博文氏がレポートする。
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棋士にはよく、その特徴をとらえた二つ名がつけられる。たとえば森内俊之九段(18世名人資格者)は「鋼鉄の受け」。久保利明王将は「さばきのアーティスト」である。
ただ、逆に強すぎるがゆえに、棋風を表す言葉がつけられない場合もある。羽生がそうだ。ただし、絶体絶命の終盤で、対局相手が驚くような奇手、妙手を放ち、信じられないような大逆転を繰り返したことから、そうした類の手は「羽生マジック」と呼ばれるようになった。
1985年、15歳の羽生は、鳴り物入りでプロとなった。当時から図抜けた中終盤の強さは、よく知れ渡っていた。しかし、序盤はそう上手くはない。すぐに苦戦に陥ることも、珍しくはなかった。最初から完璧な強さだとは、見られていなかった。だからこそ、終盤に見せる「マジック」に注目が集まった。