社会学者・上野千鶴子さんと、『なんとめでたいご臨終』の著書がある日本在宅ホスピス協会会長・小笠原文雄さんが対談。在宅医療の大問題を語り合った。
上野:私が小笠原さんと知り合った後で気がついたのは、小笠原さんがペインコントロールのプロ、モルヒネ使用の熟練者だということでした。
小笠原:ありがとうございます。在宅医療を行う上で、ぼくがいちばん大切にしているのは、「痛みを取ること」と「痛みへの不安を取ること」なんですね。そのためには、モルヒネの特性を熟知することが大事なんです。
上野:今回の『なんとめでたいご臨終』では、その熟練者に、「夜間セデーション(鎮静)」と「持続的深い鎮静(終末期鎮静)」の違いについて非常に詳しく書いてもらったのは、とてもよかったと思います。この2つは全く別ものですね。
小笠原:はい、同じくセデーションといっても、「持続的深い鎮静」は鎮静薬を使って患者に永遠の眠りを与えることで、耐えがたい苦痛を取る医療です。それゆえに“安楽死”と間違われることもあります。一方の「夜間セデーション」は、夜、不安や痛みで眠れない患者が、睡眠薬でぐっすりと眠れるようにし、朝が来ると目覚めるという、あくまで人間らしい生活を送るための医療です。
上野:今だから明かしますが、実は小笠原さんから最初に夜間セデーションの話を聞いた時、素人ながらこれはやばいと思って書かなかったんです。私だって、聞いたことを全部書くわけじゃありません(笑い)。それなのに先生は、講演などで気軽に話されるので、ひやひやしていました。誤解されませんか?
小笠原:その2つの違いを知らないかたには、「小笠原内科はセデーションばっかりやっている」とか「ガイドラインに沿っていない」とか、誤解されているかもしれませんね。
上野:ほら、やっぱり! でも今回、その2つがはっきり違うということがわかった。しかも「持続的深い鎮静」を「抜かずの宝刀」と書いていらっしゃる。この言い方、うまいです。座布団一枚(笑い)。
小笠原:ありがとうございます。
上野:宝刀は、やっぱり抜かないことに価値があります。
小笠原:抜いちゃおしまいです。
上野:驚いたことに、その抜かずの宝刀であるべき「持続的深い鎮静」を、末期のがん患者の7人に1人が受けているというデータがあります。
◆家族が後悔することもある
小笠原:2016年1月、ぼくがコメンテーターとして出演したNHK『クローズアップ現代』で発表されたものですよね。非常に驚きました。
上野:「持続的深い鎮静」をすると、患者は二度と目覚めませんね。
小笠原:その通りです。「持続的深い鎮静」をされた患者さんは二度死にます。一度目は「持続的深い鎮静」をかけられた時、二度目は実際に死んだ時です。「苦しみから解放してあげるため」というと、一見聞こえはいいですが、それを家族が同意・決断すると、後で「私たちが死なせてしまった」と深い後悔を生むことが多いんです。
上野:医者は、自信がないから使うんですか?