異常行動、情緒不安定、意思疎通ができないなど不安の多い認知症。しかし、介護する側の態度や気持ち次第で、本人の苦しみが和らぎ、介護も楽になるという。認知症治療の第一人者、和光病院院長の今井幸充さんに聞いた。
親の介護が始まるときの、子の年齢が平均50.9才という調査結果がある(※)。女性の出産年齢も年々上昇傾向にあり、親の介護と子育て時期が重なる“ダブルケア”が最近のキーワード。
(※)「介護と年齢」に関する意識・実態調査(大王製紙調べ)
つまり今の50代は、親の介護のことだけに専念できる状況ではないのだ。病床数285床の認知症専門病院で、たくさんの認知症患者とその家族の悲喜交々を見守る今井さんは、そんな時代だからこそ、「認知症ケアでいちばん大切なこと」を知っておいてほしいと言う。
「認知症の症状を悪化させる要因はストレスです。本人はもちろん、介護する家族がストレスを抱えていることで、負の感情が伝播してしまいます。介護にはいろいろな方法や形がありますが、選ぶ基準はまず、介護する家族の生活に主眼を置き、ストレスが少なく、安定してケアできる状態にすることが重要です」
介護は、個人の問題にとどまらず、介護離職、介護殺人など深刻な社会問題の側面もある。
「今は少子高齢化で、1組の夫婦が親4人を背負う時代。でもその介護する世代は、今の日本の経済を担い、また子供を産み育てて日本の未来を作っている世代です。社会的な見地からいえば、生産年齢の世代が、生産力のない高齢者の犠牲になってはいけない。また介護する子世代も、親の介護のために自分の責任を放棄してはいけません。
私は日々多くの親世代の認知症患者さんたちと密に接していますが、たとえ認知症がかなり進んで自分の子供が認識できなくなっていても、どこかで親として“子供の幸せ”をいちばんに望んでいると、感じることが多いのです。子供が自分の介護のために不幸になる姿は何よりつらいでしょう」