在宅医療の最前線を綴った新著『なんとめでたいご臨終』(小学館)がたちまち増刷するなど大きな話題となっている小笠原文雄さんが7月17日、「小学館カルチャーライブ!」に登場。その模様をレポートする。
「今日は死ぬ話をするんですが、皆さんのいでたちは明るいので、話をしやすいなぁと思っています。人間は、ここにいる人誰もが亡くなるわけなんですが、実は亡くなるまでは生きているんですよね。どうせ1回しか生きられないんだから、どのように生きたらいいのか、それを今日、考えてみたいと思います」
そんな小笠原文雄さんの言葉で「小学館カルチャーライブ!」は始まった。この日の演題は「旅立つ人も見送る人も満足な死に方」。日本在宅ホスピス協会会長で、在宅医療の名医として知られる小笠原さんが立ち会った、自宅だからこその奇跡と笑顔のエピソードを、スライドを使いながら次々と披露した。
◆母親が亡くなって3分後に家族が「笑顔でピース」
最初に紹介したのは、新著『なんとめでたいご臨終』の「はじめに」に出てくる丹羽さんご夫婦のその後の話。本の冒頭に、こんな夫婦の会話が出てくる。
〈「明日、旅に出るから、いつもの鞄と靴を用意してくれ」/「どこに行くの? 私も連れてって」/「今度は遠いところに行くから、君は家で待っていなさい」〉
大腸がんの末期だった丹羽さんは次の日、その言葉通り遠いところに旅立った──。
穏やかな顔で亡くなった丹羽さん、そして夫を見送る奥さんの笑顔に驚いた小笠原さんは、この事例をきっかけに、在宅医療に真摯に取り組むようになる。そして25年後の今年7月15日、講演の2日前に丹羽さんの奥さんが亡くなった(享年92)と、小笠原さんは明かした。それはご主人が亡くなった後、長くひとりで暮らした自宅での、やはり「なんとめでたいご臨終」だった。
6月12日、丹羽さんの奥さんがいつ亡くなるかもわからないと思った小笠原さんは、離れて住む丹羽さんの息子に、本書にも出てくる『お別れパンフ』の内容を説明した。『お別れパンフ』には、人が亡くなるまでにどんなことが起きるか、息を引き取られる時の様子、そして慌てて救急車を呼ばないように、といった極めて実際的なことが記されている。
その時、丹羽さんの奥さんと、小笠原さんはこんな会話を交わしたという。
「刷り上がったばかりの『なんとめでたいご臨終』の見本を手渡して、『あなたはここに出てるんだよ』と言って見せたら、『ああ、ホントだ』と喜んで、それからなんとまた元気になりました。そして『これは見本だから、まだ本が出るまで1週間かかるんだよ。だから、それまで生きていないとね』と伝えました。人間、嬉しくなると、なかなか亡くならないんですよ」
1か月が過ぎ、迎えた7月の3連休。いよいよ旅立ちの時が近づき、息子夫婦も家に来ていた中、それでも亡くならない奥さんを前に、こんなやり取りがあった。
小笠原「そろそろ亡くなりそうだけど、亡くならないね」
お嫁さん「実は孫が野球の試合に行っちゃって、いないんですよ」
小笠原「ああ、じゃあお孫さんが帰ってくるまで亡くならないね」
およそ1時間後、孫が帰ってくると、それを待っていたように丹羽さんの奥さんは息を引き取った。会場の画面には、丹羽さんの奥さんが亡くなって3分後に撮られた写真が映し出される。そこにはなんと、ご遺体を囲み、ご家族が「笑顔でピース!」する姿があった。
◆家族が疲れたら在宅医療は失敗なんです