小林麻央さんが6月22日に亡くなって約1か月、その存在と不在は大きくなるばかりだ。〈私は 力強く人生を歩んだ女性でありたいから 子供たちにとって強い母でありたいから ブログという手段で(がんの)陰に隠れているそんな自分とお別れしようと決めました〉──そんな宣言から始まったブログの更新回数は実に352回。今なおメッセージ欄には、たくさんの書き込みがされ、病気と闘う人々を勇気づけている。
彼女は私たちに何を遺したのか。訪問看護師として在宅医療に取り組み、「市ヶ谷のマザーテレサ」と呼ばれる秋山正子さんと、新著『なんとめでたいご臨終』が発売早々重版した日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄さんが、彼女が最期に選んだ在宅医療について語り合った。
秋山:私は小林麻央さんのブログの熱心な読者という訳ではなかったんですけれども、長らく入院されていた頃は、どうしてお家に帰らないのかな、と思っていました。というのも、私の姉は41才の時に子供2人を残して亡くなりました。その時、できるだけ子供といっしょに過ごさせてやりたいと、病院から家に連れて帰った経験があるんです。麻央さんのところも大変だろうけれども、周りの人が手伝える体制にすれば、お子さんたちにとってもいいのではないかと。ですから、ご自宅に帰られたことはよかったと思います。
小笠原:ぼくも麻央さんが「我が家は最高の場所」と綴って、自宅に帰られたことは本当によかったなぁと思います。家で同じ空気を吸うことは、共に生きたということ。母親が必死に生きる姿を見せること、そして死ぬことは、子供に命の大切さ・尊さを教えることにもなりますから。
秋山:ブログには、足浴(足湯)をした時、息子さんがお湯をかけてなでてくれたと書いていました。体に触れたりして、家族がケアに直接参加できるのは在宅のいいところです。病院だと病人が切り離されて医療の管轄下に置かれてしまうので、自分もお世話をしたという感じが、どうしても残りにくいんです。
小笠原:2人のお子さんが大きくなった時、お母さんが書き残したあのブログを読めば、どれだけ愛されていたかを実感できるでしょうし、勇気を与えられるでしょうね。
秋山:身近な人が亡くなると、もっとこうしてあげればよかったとか、あの時なぜこうしなかったのかとか、悔いが残らない人はいないと思います。それでも、家でケアを手伝うと、後になって、あの時こんなことをしてあげた、あんな話をしたと思い出せます。それはとても良いグリーフケアだと思いますし、多少なりとも自分も何かできたという満足感につながります。今はつらくても、将来的には、ご遺族にとって得がたい体験になると思いますね。