見続けるか、やめてしまうか。いわゆる作品の「伸びしろ」の見極めどきである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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夏ドラマがそろそろ出揃い、各作品のテイスト感も判明してきました。今注目の3本は、これです!
●『過保護のカホコ』(日本テレビ・水曜午後10時)
過保護に育てられた主人公・根本加穂子(高畑充希)は、21歳なのに、着ていく服さえ決めることができない「箱入り娘」「お姫さま」。そのカホコが、外の世界に目覚め、自分の意思を持ち、少しずつ踏み出し家の枠から出ていく……というそのプロセスが描かれていきます。
正直言えばスタート当初、このドラマは苦手でした。高畑充希さんの、あまりのドジでウザい箱入り娘演技が過剰で、鼻について仕方なかったのです。もしそれだけを見せ続けられたら、途中でリタイアしていたかもしれません。何とか画学生・麦野初として登場する竹内涼真さんの清々しさにすがるようにして、視聴していたのでした。
ところが……第3話あたりで、ドラマ世界にぐぐっと引き込まれてしまいました。「こうするべき」と母親が押しつける枠を、カホコが破壊し始めたあたりから。
「私がしゃべってるのを最後まで聞いてくれないのもやめてくれないかな」「何といっても麦野君と会うから」「うるさいうるさいうるさい」と、初めて母を怒鳴りつけたカホコ。
役者・高畑さんのものすごいエネルギーが、ほとばしった瞬間でした。鳥肌が立ちました。
その高畑さんの演技を絶賛する人は、多い。しかし、見所はそれだけではないはずです。土台で支えている存在がある。母親の泉役、黒木瞳さんです。
娘を溺愛し、箱入りに収めておかなければ済まない母のエネルギー。ねちっこく娘の全てを把握し、決めていく強烈な力。そこへの反発として、カホコは爆発したのですから。つまり、支配する毒母の強烈な演技がなくては、このカホコの演技も成り立たない。高畑さんの爆発的演技を成り立たせているのは、黒木さん、とも言える。
もし、このドラマに上手な相手役がいなかったら? 先に書いたように、高畑さんのやり過ぎ感ばかりが目立って、空回りしていたかもしれません。
ということで、カホコドラマの真骨頂は、「役者同士の体当たり」と「配役バランスの妙」にある。脚本は『家政婦のミタ』等の大ヒット作を持つ遊川和彦氏。母-娘の関係に潜む依存問題など、社会への視野も持つ脚本家。周到に物語の構成を作り込んでくることは、間違いなさそう。これからも目が離せません。
●『愛していたって、秘密はある。』(日本テレビ系日曜午後10時半)
主演は福士蒼汰。母親(鈴木保奈美)を守るため「父を殺した」秘密を持ちながら、普通の幸せを目の前に苦闘する青年・奥森黎を、独特の風合いで演じています。
恋人(川口春奈)に自分の秘密を伝えることができない葛藤。そして、どこかに確かに潜んでいる「秘密を暴こうとする誰か」。次々に揺さぶりをかけてくるスリルとサスペンス。
福士さんに対しては、あまり演技派という印象がなく、どちらかというと表情が乏しい役者さんだと感じていました。が、このドラマの主役は、実にいい味を出しています。むしろ、「表情がない」(しっかりと抑えている)ということが、アドバンテージとして生きている。秘密を抱えた青年の複雑さ、暗さ、屈折、内省といったものがぐっと滲み出してきて、引き込まれる要素になっています。