小林麻央さんが亡くなって約1か月。今なおブログのメッセージ欄には、たくさんの書き込みがされ、病気と闘う人々を勇気づけている。彼女は私たちに何を遺したのか。訪問看護師として在宅医療に取り組み、「市ヶ谷のマザーテレサ」と呼ばれる秋山正子さんと、新著『なんとめでたいご臨終』が発売早々重版した日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄さんが、彼女が最期に選んだ在宅医療について語り合った。
麻央さんは乳がんとリンパ節への転移が判明した後、手術や抗がん剤などによる標準治療を受けずに民間療法に頼ったため、治療の空白を生んでしまったと言われている。しかし、そこには病院が抱える問題点もあるのではないか、と2人は指摘する。
秋山:ここに相談に来るかたの中にも、何かしらの民間療法をやっている人は多いんです。検診で引っかかって検査を受けて、がんだと告知されると、たいていの人は頭の中が真っ白になってしまいます。そんな混乱の最中に、「こういう治療法がありますけど、どうしますか」と聞かれて、よくわからないうちに治療の流れに乗ってしまう。周りに相談もできず、自分だけ取り残されたような孤独感を味わう人もいます。必死な思いで情報を得ようとインターネットで検索して、民間療法に頼ってしまう。
小笠原:藁をもつかむ心境はよくわかります。患者さんの家に行くと、民間療法をされているかたが多いなと感じます。
秋山:周りの人が心配して、いろいろなものを紹介したり、送ってきたりすることもあります。訪問看護に伺うと、棚の中が高価そうなキノコやお茶でいっぱいになっていたりします。ある患者さんは青汁がいいと聞いて、毎日大量に飲んでいたら血液検査でカリウムの数値が上がってしまいました。青汁の量を控えればいいだけのことなんですけど、事情を知らない病院のドクターは腎機能が落ちたと診断しました。すると一部の薬や痛み止めのモルヒネが使えなくなってしまうんです。
小笠原:とんでもない話ですね。ぼくら在宅医療の医師は暮らしの話も聞くからいいけれど、病院の医師は、血液検査の結果だけを見て判断すると誤診しやすいんですよね。