経験ずみの人にとっては「なんだ、そんなこと」だけど、還暦になって初めて身内の死に直面した女性セブンの名物記者・オバ記者(60才)にとっては天地がひっくり返ったよう。年子の弟の死の知らせから、通夜、お葬式、49日までの流れ、その時々の感傷をレポート。
* * *
ああ、もう長くはないな。2か月前、末期の胃がんであることを本人から知らされ、すぐに会いに行って直感した。
宮大工の弟と会うのは1年半ぶりだ。その前から昼夜問わずに、酔ってかけてくる電話にうんざりしていた。私の帰省を知ると、一升瓶を持って実家にやって来て、飲んでは家族と仕事の愚痴。そうでなければけんかを吹っかけられたりとロクなことはない。
それが年々、ひどくなってきたから、「絶対に体のどこかが悪いから病院で検査しろ」と何度か意見をしていた。
「あんとき、姉ちゃんの言うことを聞いていればな」
頬骨を尖らせるまでやせた弟が、弱音を吐く。
「食べ物を喉に通すのも命がけなんだよ」と電話がかかってくる。とっさにスープにゼラチンでとろみをつけて食べさせようと作り始めたけど、やめた。強引に病院から退院してきて、自宅療養を決め込んだ弟に、家族はどれほどいやな思いをしているか。
スープなんか作って持ってったら弟は、私をダシにして妻を攻撃するに決まっている。
死の4日前に見舞いに行った時は、かすれる声で、「おれは葬式を出してもらえっかな」とそればっかり。もう、うんざりだった。
それなのに、弟の妻から、「死んじゃったよ。目を離したすきに食べ物を気管につまらせて」と、切羽詰まった声で聞かされた時は、パニックになった。
「病院には行ったの?」
「違うよ。死んだんだよ」
今思えばトンチンカンなやり取りだけど、どうしても“死”が頭の中で確定しない。親戚のおじさんや、友達の両親、仕事仲間など縁があった人の死とはまったく違うこの感覚。“死”って何だ?
◆ところかまわず襲ってくる悲しみの発作の中での葬儀の準備