海水浴が庶民のレジャーになったのは、1960年代のこと。自家用車普及で家族旅行が一般的となり、海水浴場も家族連れでにぎわった。ところが近年は、海水浴場というと無軌道に騒ぐ若者たちによる騒音や不法行為のイメージがつきまとう。家族連れが安心して遊べるように、各地で取り締まりや監視を強め、いったんは静まったかに思われたが……。ライターの森鷹久氏が、海水浴場の今について報告する。
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「あいつらは夏になると発生する蚊みたいなもん。ウルさいし鬱陶しいし、普通に暮らす人間にとっては害悪だよ」
多くの人で賑わう、関東近郊のある海岸沿いで土産店を営む村田さん(仮名)は憤りを隠さない。村田さんによれば、今から5~6年前の地元海岸は、自分勝手な若者たちであふれかえっていたという。
「海開きと同時に海の家を名乗るが、中身は何の工夫もない若者向けのただの居酒屋がズラーッとオープンする。朝早くから夜の8時頃の閉店までひっきりなしにガンガン音楽を鳴らしてやかましいし、刺青の兄ちゃんとギャルが入り乱れて、酔っ払ってゲロ吐くし喧嘩はおきるし、車道には暴走族やら走り屋みたいなのがたむろしていて……。そのおかげで、溜まり場となってしまったコンビニが一軒潰れたんだ。家族連れからは怖いと言われて敬遠されるし、俺ら本当に頭にきてたんだよ」(村田さん)
勢いがついた若者たちの暴れぶりは目に余るものだった。カーステレオでお気に入りの音楽を深夜になっても大音量で流し、酒を飲んで騒ぎ続ける。ところかまわずバーベキューを始め、片付けもしない。人に見せびらかすため、刺青やタトゥーが目立つ露出したファッションをわざわざ選び、砂浜では、周囲を威嚇するような勢いで歩き回る。しまいには、酔ったまま水上バイクにのり、禁止区域ぎりぎりまで乗り付けて、遊泳する人たちを脅かすありさまだ。
5年ほど前から各地の海岸で見られるようになった一部の若者たちによる迷惑行為に、大人たちも手をこまねいていたわけではない。ある自治体では、海の家の営業時間を短縮させ、砂浜でのバーベキューを禁止した。さらに、警察による重点的なパトロールもされることになった。ある人気海水浴場を抱える自治体の関係者が、「あの当時は本当にひどかった」と振り返る。
「駐車場や海の家の床下で大麻や合成麻薬を使用している若者が多くいました。海の家の床下に連れて行かれ、暴行された事例もあります。音楽を大音量で鳴らす、いわゆる”クラブ風”の海の家では、強制わいせつ行為や未成年の飲酒・喫煙が散見されました。暴力団関係者や半グレによる喧嘩、暴行事案の発生、バイクや車などの飲酒運転や暴走行為など、それまでの家族で海水浴を楽しむ海岸の雰囲気からかけ離れたものになってしまいました」