かつて歌舞伎が危機的状況にあったとき、当時の若手研究者郡司正勝が警鐘をこめて、『かぶき入門』を著した。いまお決まりの手引き書に「ちゃぶ台返し」をするような入門書があらわれた。
力のこもった論述がつづく。ワケ知りの見巧者の眼ではなく、ふつうの人がいぶかしく思ったり、目を丸くしたりするシーンが切り口にしてあって、いちいち納得がいく。歌舞伎の見得とマンガ表現の共通性などハッとする見方である。
「だんまり」の場で、空中遊泳のような動きのあと、全員が前の人の腰に手をのべて一列になり、足並みをそろえて奇妙なステップを踏む。私はかねがね、この「謎の動き」の意味を教えてほしいと願っていた。望みがかなって、ことのほか御満悦である。
※週刊ポスト2017年8月18・25日号