おふたりとも実に元気だ。よく笑い、時々怒り、よく話す。ともにひとりで生活をしている。作家・佐藤愛子さんはエッセイ集『九十歳。何がめでたい』が93万部を突破し、2017年上半期ベストセラーランキング総合第1位に。女優・冨士眞奈美さんは『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)で演じたアメリカ帰りの元女優役が話題を呼んだばかりだ。元気の秘訣はどこにあるのか。冨士さんが人生の先輩で「憧れの人」佐藤さんにぶつけた日々の不満と不便と楽しみ──。なんともめでたい対談のはじまり、はじまり。
〈佐藤さんは今年、春の叙勲で「旭日小綬章」を受章した。対談の日、5月12日の伝達式の際に皇居で撮影された記念写真が手許に届いた。佐藤さんが美しい着物を着て、左端に小さく写っている写真を見ながら2人の対談が進んだ〉
佐藤:天皇陛下の拝謁の時、係の人は93才という私の齢を聞いて、「佐藤さんだけここに座ってください」って、他の人はみんな立ったままなのに、違うところに連れて行かれたの。その人は、この後どこへ行くのか、きっと説明したんだろうけど、私は耳が遠いから聞こえなくて、そのうちにどこかで聞いた声がするな、と思ったら、いつの間にやら天皇陛下が目の前に…。
冨士:もうお式が始まっちゃってたんですね!
佐藤:私は隅っこに追いやられたままで(笑い)。その後も、どこへ行けばいいのか、一緒に行った孫に聞きに行かせたんだけど、その役人にもわからなくて。とりあえず廊下の椅子に座って待ってたんだけど、いつまでたっても忘れられているのよ。
もう一回、聞いてらっしゃいって孫をやったら、集合写真を撮っているところで、「大変だ、早く行ってもらわないと困ります」って役人が怒るんです。それで走ったのよ。
冨士:走ったんですか!? まさかお着物で?
佐藤:留め袖を着て、93才でよれよれだから、特別に椅子に座らされていたのに。慌てて部屋に入ると、ひとつだけ椅子が空いてたの。そこを目がけて走り込んだ途端に、カメラマンがシャッターを切ったんです。いやあ、もう、こりごりですよ、あんなところ(笑い)。