50年を超える芸能生活を送る桂文枝は、74歳のいまも新たなネタの模索や、若手の噺家の発掘など、精力的に活動を続けている。これからの上方落語、次世代の噺家への思いを、ノンフィクションライター・中村計氏が聞いた。なお、文枝は自身が審査員を務めるピン芸人No.1決定戦「R-1ぐらんぷり」に落語家が出場すれば“戦える”、と考えている。
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文枝はネタを考えるとき、笑わせる言い回しではなく、まずは物語を考えるのだという。フレームが決まれば、登場人物もセリフも自ずと決まる。人間は、自然に描けば描くほど、おかしい存在であるということを熟知しているのだ。
半分だけ開けたような目で、人間社会を冷徹に観察している。
「この間つくった『摩天楼の翼』っていうのは、あべのハルカスという日本一高いビルの上に住み始めたハヤブサと、天王寺の駅のあたりに住んでいるハトたちの話なんですけどね。それも、やっぱり、強い者に対する、弱い立場の人間の気持ちみたいのを、ハトに代弁させているわけですよ。みんなが感じてる『せやせや』みたいなね」
ほとんど感情を露わにしない文枝だが、若手の話をしているときだけは、ほんの少し、目尻が下がっているように感じられた。2003年からは上方落語協会の会長を務め、後進の指導にも余念がない。
「上方落語協会では、毎年、『若手噺家グランプリ』いうのを開催しているんです。予選からやって、9人にしぼられる決勝は、在阪各局のディレクターなり、プロデューサーなりが審査する。で、この間、優勝したんは、出た中でも、いちばん若かった。(桂)米輝君というのが『イルカ売り』という落語で優勝したんですけれども。長さは12、13分あるので、R-1には出られない。でも、なんかすごく新しい、おもしろい若手が出てきたなあっていう感じはありましたね」