元人気AV女優の大塚咲さんが自伝『よわむし』を世に送り出してから、約1か月が経ちました。レイプに遭ったことからPTSDを発症し、依存症にも悩まされながら、死んでしまった心を取り戻すために大胆な行動をとり続けた日々を振り返ったこの著書は、大きな反響をいまも広げています。決して好意的ではない言葉にも「どうして書こうと思ったんだろう?」と好奇心をつのらせる大塚咲さんに、旧知の仲である地下アイドルでライターの姫乃たまさんが、出版後の反響と、心に傷を負って苦しむ人たち届けたい大塚さんの思いをきいた。
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写真家で画家の大塚咲さんが、自伝本『よわむし』(双葉社)を出版しました。
15歳の時にレイプ被害に遭い、AV女優としての活動期間を経て、どのように現在に至ったのかが、本人の言葉で克明に記されています。まず驚いたのは、人は思い出したくないほどの辛い記憶と、これほどまで誠実に深く向き合えるのかということでした。
絵描きと写真を仕事にしている大塚さんに対して、私は物書きを生業としているのですが、ここまで心の奥底を文章に出来ない自分が情けなく、ずるい人間に感じられたほどです。文章を書くのは自覚的な行為なので、立ち直れないほどの傷を負う前にどこかで自衛してしまいます。
一方、ひとりの女性としても、『よわむし』は共感するところが多くありました。私はこどもの頃から、見知らぬ男性が自宅や公衆トイレに付いてきてしまうことが何度もあって、性的な目で見られがちだった未成年の大塚さんのエピソードには、過去の記憶を思い出させられました。
通学電車で痴漢に遭い、学校では男性教師から告白されて、怖いと思っても当時の私は恐怖を訴えることはできませんでした。自意識過剰だと思われるのも、私なんかが騒ぎ立てることで相手の家族に迷惑がかかるのも怖かったのです。『よわむし』を読んでいたら辛かったことを思いだして、子どもに戻ったように頭が痛くなるまで泣いてしまいました。辛かった気持ちを、辛かったと認められたことで、やっと私は救われたのです。
しかし、大塚さんはどうしてこんなに辛い過去と向き合うのでしょうか。
大塚さんはAV女優として活躍していた頃から、いつか自分の体験を伝えたいと思ってレイプ作品に出演することを避けていました。しかし、出演した作品が二次使用されて、レイプ作品の総集編として発売されてしまうことが度々あって、強い拒否反応と悔しさから何度も泣いたと言います。
辛い日々から時間が経ったとはいえ、『よわむし』の執筆も楽な道のりではありませんでした。傷を乗り越えるまでの日々と、その時々の思考を思い返して文章にする作業は辛く、ひどい目眩を起こして寝込んでしまう日もありました。それでも、大塚さんがこの本の出版を諦めることはありませんでした。
自分と同じ境遇にいる人や、その周囲の人々、そして加害者やその関係者になってしまった人に届けたい気持ちがあったからです。
「加害者は悪い人間だから、どんなにひどい扱いをしてもいいみたいな風潮に疑問があるんです。誰も被害者や被害者の家族になることがあってはいけないけど、加害者になった人だって、最初から悪いことをするために生まれたわけではなくて、そこに至るまでにいろんなことがあったはずです。私はこの件に関しては被害者ですが、事件に遭ってすぐ、加害者がどうしてそうなってしまったのか考えなければいけないと思いました」
大塚さんの心は、被害に遭った15歳の日に一度死にました。だからこそ、辛い日々を乗り越えて、この世界で生き抜こうと考えたのです。その日まで普通に存在していたはずの、自分の将来まで加害者に奪われないように、同級生と同じように恋愛だって楽しもうと思いました。