政府は政策で「1億総活躍社会」「生涯現役社会」「健康長寿社会」などのキーワードを打ち出しているが、その真意は高齢者を働かせ、なるべく年金を払わないようにするということだ。
政府に「高齢者は働け」と主張させる“理論的根拠”を与えたのが、日本老年学会と日本老年医学会のワーキンググループが今年1月にまとめた提言だ。
65歳以上を高齢者と定めた従来の定義を「医学的根拠はない」と否定し、「現在の高齢者は10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能変化の出現が5~10年遅延しており、『若返り現象』がみられています」と、今後は「75歳以上」を高齢者、「90歳以上」を超高齢者と区分することを提案した。
年金制度は定年後の生活保障であり、受給開始年齢は「サラリーマンの定年年齢+5歳」で決められてきた。そもそも身体的機能の衰えや高齢者かどうかは関係なく、元気な世代が年金で悠々自適の余生を送ることは制度に反していない。
しかし、学会の提言が出されるや自民党一億総活躍推進本部は前述のように“まだ現役”と65~74歳を「シルバー世代」と名づけて働かせ、年金保険料を払わせて支え手になる社会の構築を打ち出したのである。
現在の高齢者がサラリーマン時代の保険料の総額を計算すると、驚くべき金額になる。厚労省の標準モデル(現役時代の平均月収40万円で厚生年金に40年加入)の場合、支払った年金保険料の総額は2948万円に達する。老後の蓄えとなる退職金以上の金額を国に保険料として納めてきたのだ。