年収が高い特定の専門職に限り労働時間の規制対象から外そうという政府の働き方改革案(高度プロフェッショナル制度)が“残業代ゼロ法”だとして大きな批判を浴びている。だが、違法な残業代の未払いや長時間労働の強制は、すでに企業の規模・職種を問わず蔓延している。
厚生労働省が8月9日に発表した調査では、2016年度に労働基準監督署の指導を受けて合計100万円以上の「未払い残業代」を支払った企業は1349社あり、その総額は前年度比27%増の127億円だった。従業員1人あたり平均13万円の残業代が見過ごされていたことになる。
人事ジャーナリストの溝上憲文氏がいう。
「人手不足の苦しい時代とはいえ、法で定められた社員の権利よりも会社の利益を最優先し、行き過ぎた長時間労働も『美徳』とするのはブラック企業の典型といえます」
溝上氏によれば、近年は長時間労働に対する社会の風当たりも厳しいため、社員を酷使する手口は巧妙化しているという。
例えば、入社時に〈残業代は基本給に含まれている〉との雇用契約書を示したり、上司が翌日朝までの書類提出を命じて“持ち帰り残業”をさせたり……。その他、こんな悪辣なケースも多いという。
「明らかに残業しているのに、一定の時間以上を超えたら上司が超過勤務を記録しないよう厳しく指示する会社もあります。
また、以前から問題視されていた“名ばかり管理職”を置く企業も一向に減っていません。20代で管理職に昇格させて残業代を払わないばかりか、管理職の手当も出さず、権限も裁量も与えない。こうした劣悪な労働環境を強いる企業はそのままにしていいはずがありません」(溝上氏)
もちろん、定期の労働時間を超えて働いた社員に25%以上の割増賃金を払わない会社なら、労働者側は声を大にして未払いの残業代を請求できる。それでも埒があかなければ、労働基準監督署や労働組合の相談コーナーに駆け込むことだってできる。
だが、そうした事案が表沙汰になりにくいのは、「会社の言いなりになってしまう素直で我慢強い人が多いから」だと溝上氏は指摘する。