東日本大震災が物語に大きな転換をもたらす。語り手は、行方不明になった日浅を探す途上、彼の父から、幼少時の公園での「おぞましい」逸話を聞かされるのだが、なにがそんなにおぞましいのか分からないところがおぞましい。しかも、父は日浅をとうに勘当し、長らく会っていないというわりに、彼の現状や行く末について、やけにはっきり断言する点も不気味だ。そして、床に落ちていたあるものが気になる。
しかし思えば、私たちはなにをもって「異様」だとか「普通」だとか言うのだろう。当然こうだという思い込みを『影裏』は次々と軽くいなしていく。そう、ここまで、語り手は男でゲイだと思って読んでいた方々、ひょっとしたら違うかもしれませんよ!
※週刊ポスト2017年9月1日号