がんの3大療法は「外科手術」「抗がん剤治療」「放射線療法」だ。とはいっても、高齢者にとっては、副作用や手術の肉体的負担など、いずれもハードルが高い。実は75歳以上のがん治療には統一された「治療ガイドライン」が存在せず、「治療しない」という選択をする人も多い。特に抗がん剤治療では、今年4月、国立がん研究センターが「75歳以上の進行がんには効果なし」と報告した例もある。そんな中、75歳以上の患者へのがん宣告にも変化が現れ始めている。
大阪在住の80歳男性・A氏のケースを紹介したい。A氏は5月下旬から便通が滞り、10日ほど大便が出ないこともあった。6月上旬には血便も出たという。妻の強い勧めで総合病院の消化器科を受診。レントゲン、大腸内視鏡検査を行なうと3日後に診察室に呼ばれた。挨拶もそこそこに、医師はすぐ本題に移った。
「大腸がんですね。ステージIIで比較的初期といえますので、手術を選択してはどうでしょう」
2015年に343件の大腸がん手術を実施した、都立駒込病院大腸外科部長の高橋慶一医師がいう。
「大腸がんでは、がんのステージと患者の全身状態次第で高齢でも手術を行なうことが多い。私は『これしかない』という標準治療があるなら、手術リスクも示したうえで迷わずそれを提示します。その際心がけるのは、患者が理解しやすいよう資料やデータを細かく提示し、時に図を描くなどして丁寧に伝えることです」