昨今の朝ドラのなかでも「秀作」との評価を揺るぎないものにしそうな『ひよっこ』。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析する。
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8月もそろそろ終わり。NHK朝ドラ『ひよっこ』も、残すところ1か月ほど……と聞いて、びっくり。「本当にあと1か月しかないの?」とため息。これまで朝ドラの中には、「長いな、まだ2か月も続くのか」「あと1か月をどう埋めるの」「早めに終わる選択肢があってもいいのでは」と感じる作品も。
「毎日×半年という時間の長さ」は高いハードルです。グダグタした展開に退屈したり中だるみに陥ったりすることもしばしば。ところが。『ひよっこ』は、稀有なくらい中だるみ感が少ない。あと1か月「しかない」、と時間が短く感じるのはなぜ?
その理由とはいったい何なのでしょう?
従来の朝ドラでは、何とか視聴者の気を引こうと唐突にコメディタッチの笑いを誘う演出を挿入したり、恋バナを入れたりすることもありました。それがむしろ逆効果となって不評を買った例も。一方『ひよっこ』は、以下の3つの点から独特な個性が見えてきそうです。
【1】抑えた恋バナ
恋バナといえば、メインは主人公・みね子と島谷くんとの悲愛。二人はお互い強く惹かれ合って恋人同士に。しかし育った環境の違いに気づき、それが亀裂となり、みね子から悲しい別れを言い出す。(このシーンをきっかけに島谷くん演じる竹内涼真さんの人気は爆発)
でも、その他にたいして目立つ恋バナは、ありません。
記憶喪失で失踪した父・実(沢村一樹)を、助けた女優・川本世津子(菅野美穂)の二人。でも、これは最初から浮かれた恋愛話ではなくて、妻が夫を連れて帰ってしまう、世津子にとっては翼をもがれるような悲しい話。
シェフ(佐々木蔵之介)に対する愛子さん(和久井映見)の一目惚れとか、ホール担当の高子(佐藤仁美)が田舎農家に嫁ぐなどいくつかの恋愛模様は散りばめられていますが、大げさに展開したりフューチャーしたりしない。そこがむしろ良い。「現実」とは淡々と進んでいくものだから。
「恋愛話さえ入れておけば視聴者は反応する」「長丁場はつなげる」といった安易な手法に流れなかった点。それがこのドラマがダレなかった秘訣その1だと思います。