取材当日、新宿の稽古場で行なわれていたのは、チェーホフの4大戯曲のひとつ『ワーニャ伯父さん』(8月27日~新国立劇場小劇場)。宮沢りえ、黒木華ら共演者とともに稽古の真っ最中だった。主役を演じる段田安則(60)のよく通る明快な声が響き渡る。
が、稽古を終えた段田に、芝居の見所と意気込みを訊くと、なんとも頼りない答えが返ってきた。
「いまはまだ、この芝居はいったい何がウリなんだ? とよくわからない状態で(笑い)。稽古を始めて10日過ぎてもまだわからない。なんとか初日までには、『これ、ちょっといけるでしょ』と言えるところまで持っていきたいんですけどね」
段田らしい飾らぬ力の抜けた言葉に思わず苦笑した。段田は、こう続けた。
「でもね、この顔ぶれですから、いい線までいけるだろうとは思っているんですよ。登場人物はダメダメの人ばかりですが、傍から見たらそこが面白いのかもしれないなと。ホームランではないけど、渋いヒットを打ったね、という感じになる気はするんです」
そこには静かな闘志が潜んでいる。公演を誰よりもワクワクしながら待っているのは、段田本人にほかならない。舞台に立つことが心底好きなのだ。
「映像も面白いのですが、舞台は役者の守備範囲と仕事量が多くて楽しいんです。もちろん、演出家あってのことですが、セリフのタイミングや立ち位置、動きは自分で決められますから」