決勝で敗れたとはいえ、広陵高校の捕手・中村奨成こそ、今夏の主役だった。6本塁打は清原和博が1985年に作った甲子園1大会5本塁打の記録を上回るもの。決勝の2日前、中村はノンフィクションライター・柳川悠二氏に理想の捕手像と打撃論を語った。
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この夏、甲子園に最も愛された男が、ユニフォームを着た少年たちに囲まれていた。翌日に準決勝・天理戦を控えた広陵の中村は、写真撮影をおねだりする少年に「明日はどっちを応援する?」と聞いた。
「天理は応援せえへん」
思わず苦笑いを浮かべた中村は、少年の頭を撫で、こう告げた。
「頑張って、お前も甲子園に来いよ」
18歳の中村の表情には、父性すら感じられた。
「プロを希望します」
今年5月に、中村は広陵の監督である中井哲之にその意思を伝えた。中井は野村祐輔(広島)や小林誠司(巨人)ら、プロに進んだ教え子と同様、中村にも大学進学を勧めようと考えていた。しかし、母子家庭の中村は、卒業後すぐに野球を職業にし、母に負担をかけない道を訴えたのである。