9月場所の前売り券はわずか50分で完売。日本人横綱・稀勢の里誕生以来の大相撲フィーバーはいまだ継続中だ。しかし各地の夏巡業では稀勢の里に明らかな異変が起きていた。
8月10日、茨城県日立市にある池の川さくらアリーナは、故郷に錦を飾った横綱への大歓声に包まれた。
5月、7月と2場所連続で途中休場した稀勢の里は当初、夏巡業を全休する予定だった。7月場所を終えて名古屋から江戸川区の田子ノ浦部屋に戻ると、稽古は完全非公開に。ケガの療養に努めていると見られていたが、なぜ夏巡業に強行参加することになったのか。
「地元の勧進元が両親を通じて“顔だけでも出してほしい”と頼みこみ、土俵入りを披露することになった。しかし、いったん合流すると地元だけというわけにいかなくなり、以降の巡業にも帯同せざるを得なくなった」(二所ノ関一門の親方)
中京地区から北陸、関東、東北、北海道の各地21か所を廻る夏巡業は、その日のうちに次の巡業地へ移動する“ハネ立ち”がほとんどの過密日程で知られている。
「巡業スケジュールの大半を占めるバス移動は総距離2000キロにも及ぶ。狭い座席に揺られ、腰痛を悪化させる力士もいる。土俵入りだけとはいえ、体への負担は相当なもの」(スポーツ紙担当記者)
稀勢の里が「帰れない」のには別の理由もあった。今回の巡業は白鵬以外の3横綱が不在という状況で始まった。当初は一人横綱として巡業を支えていた白鵬だが、8月8日から日馬富士、10日に稀勢の里が合流すると、12日の仙台巡業中に「膝の治療のため」と新幹線で帰京してしまったのだ。