緊迫する北朝鮮情勢が連日報じられている。北朝鮮の脅威というと核兵器と弾道ミサイルに目が行きがちだが、大量の難民の漂着も考慮しておく必要がある。難民対策が確立されていない場合、日本の治安にも影響を及ぼすからだ。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が、迫りくる北朝鮮からの“難民リスク”をシミュレーションする。
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北朝鮮にとっては、大量の難民は日本国内を混乱させるための一つの「武器」となる。有事の際に漁船や貨物船などで意図的に大量の「難民」を上陸させることで、警察はじめとする行政機関を混乱におとしめることが出来るからだ。
また、「難民」に生物兵器を運ぶ役割を担わせることもできる。難民自身が感染していればいいからだ。例えば、天然痘ウィルスは人から人へ飛沫感染(空気感染)するため、大量に散布する必要はなく1人に感染させればよい。
◆数万人規模の難民漂着を想定
安倍晋三首相は今年4月17日の衆院決算行政監視委員会で、「上陸の手続き、収容施設の設置、庇護すべき者にあたるか否かのスクリーニング(選別)といった一連の対応を想定している」と説明している。
政府は最大数万人の難民が船で日本海を渡ってくると想定しており、日本海側に数か所の拠点となる港を選定し、その拠点港において上陸時に身元や所持品を調べ、北朝鮮の工作員やテロリストの入国を防ぐ。また、北朝鮮が韓国を攻撃した場合は韓国からも難民が来ると想定し、臨時収容施設の設置計画を検討するとしている。
拠点港では難民に水や食料などの応急物資を支給し、警察官も動員して身体検査を実施する。また、法務省入国管理局(以下、入管と記述)や税関、検疫所による上陸手続きを行ったうえで、臨時の収容施設に受け入れるとしている。(「毎日新聞」電子版、2017年4月28日)
◆偽装難民の流入
北朝鮮難民が漂着した場合に想定される最悪の事態は、難民に紛れて工作員、特殊部隊員、テロリスト(以下、これらを工作員と表記)の上陸なのだが、スクリーニングでの具体的な見分け方が問題となる。
当然のことだが、工作員が武器や爆発物を所持したまま検査を受けることはない。また、検査の際に自分の身分を正直に「自己申告」することもない。さらに厄介な問題として、元特殊部隊員や元工作員の扱いがある。漂着した時点では「民間人」なのだから追い返すわけにはいかない。
つまり上陸手続きは、本当か嘘かも分からない「自己申告」により進められることになるため、スクリーニング自体が無意味になりかねない。
なお、韓国では脱北者が韓国へ入国すると、直ちにソウル市内の韓国軍情報司令部の施設へ収容され、1~2週間にわたり調査を受ける。調査内容は、脱北の動機、脱出の経路及び手段、北朝鮮での生活状況等である。調査は、統一部(南北統一に関する事項を所掌する官庁)、国家情報院(情報機関)、韓国軍情報司令部が合同調査班を編成して行う。
脱北者の受け入れ態勢が整い、通訳を必要としない韓国ですらこれだけの時間がかかるのだから、日本で検査や手続きが難航することは想像に難くない。韓国で1~2週間かけて行われているスクリーニングを含む調査を、日本政府はどの程度の期間で行うつもりなのだろうか。
上陸手続きを進めるにあたっては朝鮮語の通訳が必要となる。韓国語と朝鮮語は微妙に異なっているうえ、北朝鮮の訛りまで理解できる通訳を確保することは難しい。警察、海上保安庁、自衛隊は独自の語学教育を行っているが、あくまでも韓国語の教育であるため、通訳レベルの流暢な朝鮮語を話すことができる職員は皆無といっていい。