音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の連載「落語の目利き」より、今回は立川談春の逸話を紹介する。
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立川談春といえば今や「全国ツアーの人」だ。10年前の僕は年間50席くらい談春の落語をナマで聴いたが、もう絶対に無理だ。今の談春は東京近辺でそんなに落語をやらない。
今年の談春は1月から5月まで『居残り佐平次』をネタ出ししての全国ツアーを行なった。品川の遊郭で豪遊して勘定を踏み倒し、大金をせしめて去る佐平次という男を、立川談志は「なんだかワカラナイ奴」として描いたが、談春の演じる佐平次は、愛嬌のある反面ドスの利いたワルの顔を持つ巧妙な詐欺師。最大の特徴はその饒舌さで、若い衆を煙に巻く佐平次の描写が圧倒的に面白い。
この場面を念入りに演じて時間が掛かるということもあってか、なんとこのツアーで談春はこの噺を、一文無しだとバレるまでの「上」、客にヨイショをして活躍する「下」に分けた。間に休憩を挟む二部構成で『居残り佐平次』を演じた落語家は談春だけだ。
佐平次に限らず、談春落語の登場人物は全体に饒舌だが、これは談春自身の饒舌さを反映している。6月に全国8ヵ所を廻った「立川談春 映画『忍びの国』噺+らくご」は、そんな談春の面目躍如たる企画。嵐の大野智が主演した映画『忍びの国』(7月公開)に談春は百地三太夫役で出演したが、このツアーで談春は巨大プロジェクターで映像を見せつつ撮影秘話を1時間近く語り、休憩後、ネタ出しの人情噺『紺屋高尾』を演じた。