夏の甲子園1回戦の広陵対中京大中京戦。6回表、1アウトランナーなしの場面で打席に入った広陵・中村奨成(18)は、外角高めのボールを逆方向へ見事に打ち返し、ライトスタンドに運んだ。その映像を見つめる、球界唯一の三冠王捕手にして、指導者として古田敦也らを育て上げた野村克也氏(82)が呟いた。
「ローボールヒッターかと思ったが、高めも打ってるじゃないか。これは凄いわ」
中村の素質に驚きを隠さない野村氏は、こう続けた。
「プロで大成するには高めのスイング、低めのスイングと2通りのスイングが必要になるんだよ。内角と外角じゃなくて、高めと低め。アッパースイングだけじゃ高めは打てないから。プロでも高めに強いことが、ホームランバッターにとっての絶対条件なんだが、この中村という子はそれができている」
この夏の大会でホームラン6本を放ち、清原和博の持つ一大会の最多記録を32年ぶりに塗り替えて秋のドラフトの最注目株となった中村。日本のプロ野球史上唯一、捕手として三冠王(1965年)を成し遂げた野村氏も、中村の才能に期待を寄せているようだ。
「走攻守三拍子そろった捕手というのは、プロでもそうはいない。体は意外に細いんだ。181cm、76kgか。これから肉がついてくるだろうが、もう少し体重が欲しいね。甲子園での試合は少しだけ見たよ。肩の良さは分かった。キャッチャーとしての一番の条件は肩だからね」