「二大政党制の実現に生涯を捧げた」──羽田孜・元首相(享年82)の死を悼む各紙の追悼記事は、異口同音にそう故人を評した。羽田氏は1994年、首相になるもわずか64日で退陣に追い込まれた後、仲間たちが次々と自民党に復党する中でも野党人生を貫いた。
「俺は一人になっても辻立ちして、政治改革を訴えるんだ」
それが口癖だった。しかし本誌・週刊ポストは、羽田氏の秘めた古巣・自民党への思いを、最後に聞いていた。2012年に政界引退後、表舞台から身を引いた羽田氏だったが、今年に入って2度、取材に協力してもらった。
1度目は1月13・20日号の「歴代最高の宰相は誰か」を現役政治家やOBたちに聞いたアンケート企画である。ここで羽田氏が選んだのは、自らでも政権交代を成し遂げた盟友・細川護煕氏でもなく、かつての師・田中角栄氏だった。
「最も国民の生活を大切にした情の政治家」
そう理由を書いた。2度目は7月21・28日号。自民党OBたちに現在の自民党への意見・批判を聞く、「古巣への戒飭」という企画である。羽田氏に企画趣旨を伝えたところ、高齢で取材には応じられないとしたものの、「短いメッセージなら」と、直筆の文書が届いた。
「政治が乱暴すぎる。国民に背を向けた狂瀾怒濤政権に終止符を。政道とは民のためにあり」
これは、民進党に向けられた言葉ではない。あくまで古巣・自民党に向けた諫言だ。