痩せこけた上半身はわずかな食料だけで働かされた過酷な労働の実態を、振り上げた手は真っ暗闇の炭坑から地上に出たまぶしさと喜びを、肩に乗った小鳥は抑圧からの解放を、それぞれ表現したのだと解説してみせると、会場から喝采があがる。
会場で夫婦をつかまえた。だが、夫のキム・ウンソン氏から返ってきたのはこんな反応だった。
「取材には応じません」
──なぜ?
「日本のメディアは歪曲した報道ばかりするからです。私が言ったとおりに書かないでしょう」
──慰安婦像や徴用工の設置をめぐり日韓関係が深刻な問題になっている。これについてどう思うのか。
「コメントしません」
夫婦は穏やかな笑みを浮かべるが、一切、具体的な言葉を発さない。対照的に、韓国メディアのインタビューには快く応じてみせている。日韓関係の障壁を作っている、その当事者の態度として、納得できるものではなかった。
●たけなか・あきひろ/1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。近著に『沖縄を売った男』。
※SAPIO2017年10月号