「和民」「白木屋」「甘太郎」など1980年代後半から1990年代に一世を風靡し、主要駅前の“居酒屋ビル”が名所になるほど多店舗化を進めてきた老舗の総合居酒屋チェーンが、いま軒並み苦戦を強いられている。
市場調査会社の富士経済によると、2010年に2兆1492億円もの売上高があった巨大な居酒屋・炉端焼市場は右肩下がりを続け、2016年は1兆7751億円まで落ち込んだ。店舗数を見ても6年で1万5000店近く減らしているのが現状だ。
幅広いメニューと低価格を売りに、ひと昔前までサラリーマンの憩いの場だった大手居酒屋チェーンがなぜ不振に喘いでいるのか。外食ジャーナリストの中村芳平氏に聞いてみると、さまざまな時代背景が浮き彫りになった。
──ここ数年、ワタミをはじめ、「白木屋」や「笑笑」などを展開するモンテローザの業績悪化や店舗閉鎖、統廃合なども報じられ、総合居酒屋チェーンの苦境が表面化しているが、その要因は。
中村:リーマン・ショックに端を発した景気悪化で、2000年代後半から居酒屋需要は徐々に落ち込んでいましたが、そもそも和民にしても白木屋にしても1980年代にできた業態で、もう30年以上が経っています。いくらメニューを変えても、店のブランド自体が飽きられている感は否めません。
──和民は2011年に赤から黒の看板に改装し、ブランドイメージの刷新も行なったが、あまり成功しているとは言い難い。
中村:かつて和民を利用していた顧客が中高年になり、いまは均一価格の焼き鳥チェーン「鳥貴族」やエー・ピーカンパニーが手掛ける「塚田農場」、新鮮な魚介類が食べられる「磯丸水産」(SFPダイニング)などの“専門居酒屋”に流れてしまいました。そこで、若者を中心に新しい顧客を掴もうと黒・和民をつくっておシャレさや高級感を出したのですが、そこまで店舗イメージは上がっていません。
ただ、ワタミも焼き鳥や串揚げを扱う「三代目鳥メロ」や、唐揚げが主力の「ミライザカ」といった新業態を開発し、既存の和民や「坐和民」「わたみん家」から業態転換を図っている最中です。その効果もあり、ワタミグループは総店舗数こそ増えていませんが、業績は少しずつ回復しています。
──焼き鳥から刺し身、洋食まですべてある総合居酒屋が時代遅れになったということか。
中村:外食に慣れたいまの人たちは口が肥えていますし、価格にも敏感です。いくら安い居酒屋でも値段以上の味や感動がなければ二度と行きません。そういった意味では、何でも食べられるけれど、どのメニューを注文しても専門性や付加価値を見出せない総合居酒屋の時代は終わったといえます。
──そのせいか、最近は駅前の好立地にあった居酒屋チェーンが撤退する光景もよく目にする。
中村:大手居酒屋チェーンのこれまでのビジネスモデルは、とにかく駅前で一番目立つ繁華街立地、しかもビルを一棟借りして自社業態を一斉に出店するなどして大量の客を取り込む戦略を取っていました。好立地に出すことで広告宣伝効果も大きかったのです。
また、1990年代の経済成長期は、法人の宴会需要が多く、10人単位の団体客も見込めたので、飲み放題や食べ放題といった定額料金にしても確実に儲けが出る仕組みでした。
しかし、今は会社の宴会自体が少なく、若い社員が上司と一緒に飲みに行くのを嫌がるような時代です。そのうえ、若者は好立地にある名の知れたチェーン居酒屋でなくても、グルメサイトやSNSを経由して遠くの「個店」までわざわざ足を運びます。もはや大手チェーンの競争力の源泉であった立地戦略が通用しない時代なのです。