音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、今回は柳家さん喬と噺との向き合い方について紹介する。
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寄席の世界を代表する「正統派の雄」柳家さん喬。芸歴50年を迎え紫綬褒章も受けた今年、彼が初めての著書を出版した。題して『大人の落語』(講談社)。「落語の中の男と女」をテーマに、『芝浜』『幾代餅』『品川心中』『子別れ』等々、自身の手掛ける名作落語20席について解説したもの。芸論や薀蓄ではなく、あくまでも「自分はこういう思いでこの噺をやっている」ということを語っている。そこがいい。落語ファンはそういうものこそが読みたいのだ。
この本の中でさん喬は、こう書いている。
「落語には演じる型がない。型がないだけに時代によっても変わるし演者によっても変わる。その分、自由度が高くて楽なところはありますが、逆に自分の想像の世界をはっきりさせておかないとお客様に伝わらない」
まさにそのとおり。演者によって落語は変わる。そこに、落語を聴く醍醐味がある。
6月5日に東京・深川江戸資料館で、この『大人の落語』の刊行記念落語会が行なわれた。4000円の料金に書籍代(1800円+税)も含まれ、入場者は直筆サイン入りの新刊を受け取る。この会でさん喬は滑稽噺『締め込み』と長編人情噺『雪の瀬川』を演じた。