超高齢社会が迫るなか、医療・介護現場の人手不足は深刻で、あぶれだした高齢者が施設ではなく在宅での「老老介護」を選ぶしかなくなる。そうしたなかで、認知症の行方不明者は年間1万5000人を超え、かつてないペースで激増しているのだ。
「行方が分からなくなるのには“本人なりの理由がある”ことが多い」と指摘するのは日本地域ケア協会・梅澤宗一郎代表だ。
「たとえば女性の場合、雨の日にいなくなることが多い。それは認知症を発症する前、健康だった時の習慣的な記憶と関係があるのではないかと考えられています。雨が降ったら『洗濯物を取り込むために急いで帰る』あるいは『小学校まで傘を持って子供を迎えに行かなければいけない』といった不安に駆られていた。それを“思い出している”のではないかということです。
他にも、寒くて閉じこもりがちな冬から春になると体が外出を求める。また年中行事としてお墓参りをしていた人はそうした記憶に突き動かされるのか、お彼岸、お盆に先祖の墓を探しては、とんでもない場所まで行ってから自分がどこにいるのかわからなくなる、ということもあります」
だからこそ、認知症患者の徘徊行動に対して、「頭ごなしに否定するのは逆効果」と梅澤氏は続ける。
「日の出前から出勤するモーレツサラリーマンだった方に多いのですが、真夜中に“会社に行く”と言い出す。そういう時は、ただ止めるのではなく、“行ってらっしゃい。でも、その前にご飯食べないと”といったふうに一旦は受け止め、それから家の中に止める理由を言うほうが効果的です」