力士は引退までケガと戦い続けることを強いられる。特に負け越しが引退に直結する横綱となれば、出場の判断が慎重になるのは無理のないことだ。とはいえ9月10日に初日を迎えた秋場所は異常だった。本場所が迫っても4横綱が揃って出場・休場の態度を明言せず、編成会議前日になって稀勢の里と鶴竜が休場届を提出。白鵬に至っては8日になって休場を明らかにした。3横綱が初日から休場する昭和以降初めての異常事態の裏ではコントのような駆け引きが繰り広げられていた──。
9月1日に行なわれた横綱審議委員会の稽古総見から異変は起こっていた。4横綱全員が顔を揃えたが、そのうち土俵に上がったのは日馬富士だけだったのだ。
「次の目標は大台(40回目の優勝)。早々にやりたい。できることをやって初日を迎えたい」(白鵬)
「(体調)万全になれば大丈夫。焦りはない。強い気持ちでやる」(鶴竜)
「ケガとはうまく付き合いながら頑張る。毎場所、全身全霊」(日馬富士)
出場に前向きな言葉を発していたモンゴル人横綱たちだが、表情からは「できれば休みたい」という胸中がすでに透けて見えていた。
◆相撲は休んでディナーショー
「今年だけで3場所途中休場した鶴竜は出場すれば進退がかかる。踏み込みに不安がある現状では休むしかない一方で、横綱昇進後7度目となる休場も心証が悪い。総見ではすり足の稽古をしたが、あれは“休むけれどやる気はある”という横審への必死のアピールだった。日馬富士も左肘の手術を先送りにして薬で痛みを抑えている状態。両膝にも慢性的な痛みを抱えており、本来ならば出たくなかった」(スポーツ紙記者)