深夜2時、愛猫のアメリカンショートヘア(3才・メス)を抱えて夜間外来に飛び込んできた40代の飼い主女性は、最初から半狂乱状態だった。
「うちの子、吐き気が止まらないんです! 大至急診てください! お願いします!」
勝手に診察台に愛猫を寝かせる飼い主に仰天しつつ、獣医師が病状を聞くと、「それを調べるのがあなたの仕事でしょう!」とピシャリ。検査のために採血しようとしたら、いきなり怒鳴られた。
「何するんですか! うちの子を傷つけたら許しませんよ!」
治療のためにも必要な行為だと説明するも、「この子の血はきれいですから!」と取り付く島もなし。しまいにはこんな発言も飛び出した。
「治せなかったら料金は支払いませんからね」
8月初旬、都心で動物病院を経営する獣医師のAさん(43才)が体験した出来事である。
「この程度は序の口です。治療方針に従わない、金を払わない、預けたまま取りに来ない。そういう滅茶苦茶な飼い主、“モンスターペイシェント”が今、ペット業界でも激増しているんです」(Aさん)
一般社団法人ペットフード協会の調査によれば、犬猫の推計飼育頭数は1972万頭(2016年度)。犬は年々減少しているが、その分猫が増加。15才未満の子供が1500万人の日本にあって、今や子供よりペットの方が多い。
「動物病院は年々増えています。都内ではすでに飽和状態。病院が増えすぎて食っていけない獣医師も出てきている。腕の悪い獣医師が淘汰されるのは仕方ないですが、今われわれが直面している最大の問題は、医師の数ではなく患者。飼い主のモラル崩壊にあります」(Aさん)
冒頭のエピソードはその一例。取材を進めると、多くの獣医師が頭を抱える「モンスターペイシェント」の実態が次々と明らかになった。
◆20万円以上踏み倒す人も