〈仕事がやりにくくなるので、早く辞めてくださるようにお願いします〉──国税庁長官の罷免を求める署名1万706筆のなかには、現役税務署職員によるそんな恨み言もあったという。集められた署名は、8月21日に財務省に提出された。矛先を向けられた国税庁長官は、前・財務省理財局長の佐川宣寿氏だ。
森友学園の国有地払い下げ問題を巡り、国会で「記憶に残っていない」「記録は破棄した」と繰り返した結果、7月5日付で国税庁長官に“栄転”。露骨な論功行賞でよほどバツが悪いのか、佐川氏は長官就任会見すら開いていない。
「よりによって、国会答弁で行政の信頼を失墜させた人物が、最も国民の信頼を要するポストである国税庁のトップに就いたのですから、ブラックジョークとしかいいようがない」
そう怒りを込めるのは、署名を提出した市民グループを取りまとめる醍醐聰・東京大学名誉教授だ。
森友問題で財務省は、国有地払い下げ交渉の記録を売買契約が成立した時点で廃棄したとしていた。醍醐氏らは、将来変更する可能性がある条件がついているにもかかわらず、契約成立をもって事案終了として交渉記録を廃棄したのは公文書管理法に違反するとして、佐川氏の罷免を求めている。醍醐氏が続ける。
「私の専門である会計学の観点から見ても、森友問題の経緯はありえないものだった。国会で『記録がない』答弁を連発した人が国税庁のトップでは、納税者に『支払いの書類は捨てました。でも実際に支払いはありました。認めてください』と主張されたらどうするのか。今回、現役の税務署職員と名乗って署名したのは1人でしたが、現役職員と思われる方から、『すでに納税者からの反発があり、仕事がやりにくい』というメッセージもありました」