「富裕層に年金返上を求め、子育て財源に充てる制度を考えている」「『返上したよ』と連絡をくれた企業の会長もいる」──自民党のスポークスマン、小泉進次郎・筆頭副幹事長がぶち上げた「年金自主返上論」が大きな波紋を呼んでいる。本誌・週刊ポストは9月15日号で、小泉発言の裏に、富裕層だけでなく、多くの働く高齢者が年金をもらいにくくなるような社会のムードをつくって年金を返上させようという狙いが隠されていると指摘したが、財界からも、「返上は個人の問題で政策ではない」(小林喜光・経済同友会代表幹事=三菱ケミカル会長。8月29日の会見にて)という批判が上がっている。
小泉氏は「自主返上しろ」というが、働く高齢者には年金を強制的に返上させられる「在職老齢年金」の制度がある。大企業の経営者のような高額所得者ではなくても、月の収入が28万円を超えると年金を減額(支給停止)されているのだ(*注)。
【*注/賞与と給与の合計の12分の1の額(総報酬月額相当額)と基本月額(年金額)の合計が28万円を超える場合、超過分の2分の1がカットされる(60~64歳)】
この「在職老齢年金」の制度はもともと働く高齢者に年金を支給するために高度成長期(1965年)に創設された。当時は65歳以上の在職者は受給額が2割カットだったが、20歳以上の全国民が年金に強制加入となった1985年の年金大改正で、「高齢者の就労を阻害しない」ために65歳以上はいくら収入があっても年金を全額受給できるようになった。
だが、年金財政が苦しくなると一転して受給カットのために制度が改悪された。働く高齢者の年金減額の対象は65歳未満から69歳(2002年)→70歳以上(2007年)へとどんどん拡大され、さらに2015年からは年齢制限が完全に撤廃。働いて一定の収入があるかぎりは死ぬまで年金が減額されることになった。