相撲が好きな人ならば、誰しも必ず「忘れられない一番」があるはずだ。横綱同士の力のぶつかり合い、小兵力士が技術で巨漢力士を圧倒した一番、そして勝負以上に人を惹きつける土俵上での人間ドラマ。どんなに時間が経っても色褪せることのない一番は何か。この10年間の大相撲の名勝負を3番、紹介しよう。
○稀勢の里(小手投げ)照ノ富士● 2017年春場所千秋楽
「『19年ぶりの日本出身横綱』が奮闘プレッシャーに打ち勝った満身創痍の小手投げ」
前場所で初優勝し、19年ぶりに日本出身力士の横綱に昇進した稀勢の里。この場所も格下力士を寄せ付けず、初日から12連勝と独走状態だった。しかし13日目の日馬富士戦で左肩を負傷、翌日の鶴竜戦にも強行出場したものの左肩から二の腕にかけてテーピングで固めて相撲が取れる状態ではなく、この時点で1敗の照ノ富士に逆転されてしまった。
本割、決定戦と照ノ富士に連勝しないと優勝できない状況で出場した千秋楽。本割は立ち合いに変化して突き落としで勝利する。続く決定戦ではあっさり両差しを許し土俵際まで追い込まれたが、一発逆転の小手投げを決めた。奇跡の逆転勝利で、貴乃花以来となる史上8人目の新横綱昇進場所での優勝を決めた。しかしその後、2場所連続で途中休場に追い込まれ、今場所はついに全休となった。
○稀勢の里(突き落とし)白鵬● 2010年九州場所2日目
「白鵬の『双葉山超え』を阻止した平成相撲最大の金星」
双葉山の連勝記録「69」の更新まであと7つに迫った白鵬を止めた(63連勝)のは、関脇で“白鵬キラー”の稀勢の里だった。立ち合い、稀勢の里が白鵬に右張り手を見舞った執念の一番。稀勢の里に突き落とされ、勢い余って客席に突っ込んで座り込んだ白鵬は、苦笑いを浮かべながら首をかしげた。「平成相撲最大の金星」とされる。