音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の連載「落語の目利き」より、今、最も落語会のチケットが取りづらい春風亭一之輔を紹介する。
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今年4月、NHK総合テレビの『プロフェッショナル 仕事の流儀』が春風亭一之輔を「落語ブームを牽引する男」として紹介した。ブーム云々はさておき、一之輔が今、最も「旬」な落語家であることは間違いない。
最近の一之輔の集客力の急上昇ぶりには目を見張るものがある。彼は2013年から毎年「ドッサりまわるぜ」という全国ツアーを行なっていて、東京公演は有楽町のよみうりホール。客席数1100の大会場だけに、以前は柳家喬太郎、柳家小三治、笑福亭鶴瓶ら強力な助っ人を迎えて観客動員を図ったが、今年(7月8日)はゲストなしで即完売となった。演じたのは『千早ふる』『お見立て』『居残り佐平次』の3席。
一之輔の『千早ふる』はアドリブのギャグに自分自身が面白がりながら成長させた素敵な作品だ。「ディスクに溜まった朝ドラ録画を消去してて忙しいから」と八五郎を帰そうとするご隠居の豪快なキャラは空前絶後、「歌を詠んだのはカリフラワーのカリフラワー」に始まり「江戸中末期の相撲取り竜田川の口が臭かったと当時の『月刊相撲』に載ってる」などと言い出す暴走っぷりは一之輔の独壇場だ。
「この噺、柳家の人はもっとちゃんとやるよ」とツッコミを入れられたご隠居がキレて「『千早ふる』なんてご隠居がその場の思いつきで適当に言ってるだけなんだよ!」と言い返したのには爆笑した。本来のサゲを素通りして到達するオリジナルのサゲも「こう来たか!」と意表を突く。
お大尽の田舎者っぷりと喜瀬川花魁の傍若無人ぶりが際立つ『お見立て』は、人物造形のデフォルメが秀逸な一席。もはや「一之輔十八番」と言っていいだろう。2人に振り回されてヤケクソになっていく喜助が抜群に可笑しい。墓はカムチャッカだとでも言っておけばよかったと責める花魁に「言ったとしても行きますよあの人は!」と反論する喜助の気持ちがよくわかる。