【著者に訊け】あさのあつこ氏/『末ながく、お幸せに』/小学館/1200円+税
なるほど言われてみれば結婚式ほど、本音と建前が交錯する場も珍しい。新郎新婦の職場や学校での顔を、それぞれ断片的に知る人々が集い、人によっては祝辞まで披露するのだから。
「私も息子と娘が3人いますけど、特に娘の時は驚きましたね。へえ、この人、そういう人だったんだって。母親としては娘の知らない一面を発見するのが面白くもあり、虚しくもあって」
あさのあつこ氏の最新刊『末ながく、お幸せに』は出席者1人1人に光をあてた〈結婚式小説〉。食品会社勤務の〈萌恵〉と料理人の〈泰樹〉が結婚を機に小さなレストランを開くことも専ら祝辞によって語られ、本人たちは雛壇で微笑みを返すばかり。スピーチする人もしない人もそれぞれに思いを抱えてこの場に居り、その中には新婦の生みの母と育ての母の姿もあった。
そんな思いと思いが新郎新婦の人となりを浮き彫りにする物語は、まずは新婦友人〈三杉愛弥〉の、正直すぎる告白で幕を開ける。
後に映画化もされた大人気シリーズ『バッテリー』完結から12年。近年は時代小説や性愛小説にも新境地を拓くあさの氏は、「これをイイ結婚のイイ話にだけはしたくなかった」と言う。