安倍晋三・首相が解散に踏み切った理由はただ一つ。「今なら勝てそうだから」──である。それは同時に、国民にとっては何の意味もなく、選択肢すら与えられない選挙といえる。為政者から小馬鹿にされた有権者は、その怒りをどう表現すべきか。「民の反撃」の手段の有力な武器が「落選運動」だ。
「落選運動」は議員として相応しくないと考えられる候補の名前を挙げて「××を落選させよう」「当選させるな」と口コミやインターネットで呼び掛ける運動だ。「特定の候補を当選させる」行為である選挙運動ではないことから、18歳未満など有権者でなくても参加できるし、呼びかけるのが公示期間中でも、投票日当日でも公選法には抵触しない。
世界を見ると事前の予測を覆す劇的な変化をもたらした選挙は枚挙に暇がない。最近では、今年6月の英国の総選挙(下院選挙)でそれが起きた。
当時の支持率は与党の保守党(48%)が労働党(24%)にダブルスコアをつけ、党首の評価でもメイ首相が39ポイントの大差をつけてリードしていた。そこでメイ首相は、5月3日に抜き打ち解散に踏み切った。その状況はまさしく、今回の安倍首相の「今なら勝てる解散」に重なるものだった。
ところが、保守党が“認知症税”と呼ばれる高齢者の在宅介護の自己負担増を強いる政策を打ち出して支持層の高齢者の反発を招いた。その間に労働党は若い層に支持を広げて追い上げ、結果は保守党が過半数割れ、労働党は議席を大きく伸ばして与野党伯仲状況が生まれたのである。
日本で落選運動の成功のカギを握るのも従来、自民党支持の傾向が強かった高齢者層だ。