公道に溢れ出るゴミの山、偏屈な家の主、困り果てる近隣住人…。「ゴミ屋敷」と聞いて思い浮かべるこうしたイメージは、今や昔のものになりつつある。昨今、外から見えない「マンションゴミ屋敷」が激増している。昨今このゴミ屋敷問題に新たな悲劇が生まれている。「高齢世帯」のゴミ屋敷化である。
『ルポ ゴミ屋敷に棲む人々』(幻冬舎新書)の著者で東邦大学看護学部の岸恵美子教授が語る。
「足腰を弱め、ゴミ捨て場までゴミを持って行くことができない高齢者や、独居でゴミ捨てを頼める人がいないなど、いわゆる『ゴミ出し難民』が全国規模で発生しています。ゴミの分別も難しく、ゴミ出しが自力でできなくなった結果、やむなくゴミ屋敷化してしまう高齢世帯が多いんです」
食事は生協などのデリバリーで手に入れることができても、その先のゴミ捨てには体力的なハードルがある。寝たきりの高齢者ではなおさらだ。
「認知症でゴミ出しの曜日がわからなくなったり、分別できなくなるケースも多く、中には自宅がゴミ屋敷化していることに気づかないかたもいます」(岸教授)
さらに根深い病巣が、体力はあるが気力がなくなるという「セルフネグレクト」(自己放任)の問題である。
配偶者との離婚や家族との死別をきっかけに心が沈み込み、家のことが何もできずゴミ屋敷化するというケースは散見される。これが高齢者の場合、家事全般だけでなく、「自分自身の放任」にまで繋がりやすい。
「若い人は仕事や学校があるので、家がゴミ屋敷化しても外には出るし、最低限の日常生活は保たれる。でも高齢者は違う。配偶者に先立たれたり、何かのきっかけで無気力状態に陥った時、自分の生活に対する執着さえなくなってしまうんです。入浴もせず、汚れた服を着続け、ゴミもそのまま。結果的にゴミ屋敷になり、孤独死の危険も生まれる」(岸教授)
昨年5月、千葉県の一戸建てで、両足が壊死した60代女性が警察官に救出される出来事があった。室内はゴミ屋敷と化しており、女性の体は大量のゴミに埋もれ、顔だけが出ている状態だったという。