映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、正義感の強い役を演じることが多い俳優・加藤剛が、役者としての本格デビューとなったドラマ『人間の條件』について、何度も作品に出演した木下惠介監督との思い出を語った言葉を紹介する。
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加藤剛は1962年、TBSのドラマ『人間の條件』で役者として本格デビュー、戦時中に前線にいながらも自らの正義を貫く主人公・梶を演じた。
「その時のプロデューサーが養成所の稽古場で稽古しているのを見てくださり、中野誠也と私が応接室に呼ばれて、最終的に私が選ばれました。
まさか、そういう大きな役をやれるとは思っていませんでした。この時は養成所の二年生で、撮影のためにほとんど授業に出られなかったので落第しました。
初めてのカメラ前での演技でしたが、カメラを意識したことはありませんでした。演じるということは、その時の相手役と交流しながら本当にその時の役柄の気持ちになって生きることですから、それは舞台もカメラ前も変わりません。
それだけに、毎日が大変でした。日常もその役の生活を意識しながら過ごすわけですから。兵隊として命令をきかないといけない中で、どう良心を生かすのか。そうした戦争の極限状況の中で人間としていかに生きるかを常に考えていましたから、辛くて苦しい日々でした。当時は姉の家に居候していましたが、『なんだか顔が変わってきた』と言われました。役者は、その役の中に入って生活すると自身の生活も同じになるから、顔も変わっていくんでしょう」
その後の加藤の演じる役は梶と同じく、どんな困難な状況にあっても正義や良心を貫く硬骨漢であることが多い。