選挙報道に「選挙予測」という手法を確立した政治学者・福岡政行氏(72)は、2007年8月に大腸がんの宣告を受けた。
「宣告の半年前から便に血が混じっていましたが、“痔かな”と、気にも留めていなかった。心配した妻の勧めで精密検査を受けたら、医師に『大腸がんです。切ります』と告げられ、開腹手術になりました」
大腸がんで命を落とす人は年間5万人にのぼる。だが福岡氏はショックを受けなかったという。
「私のがんはステージIIIbでかなり深刻な状態でした。しかし妻と医師が示し合わせて、病状を私には伏せていたのです。そのおかげで前向きに手術に臨めた。その1か月前に初孫が生まれたばかり。“孫のためにも死ねない”という気持ちが強かった」
手術は成功し、大勢が見舞いに来た。そのひとりが駒澤大講師時代の教え子だった野球評論家・中畑清氏だった。
「私が水しか飲めない時に、中畑は病院のルームサービスでビーフシチューを頼んで、目の前でガツガツ食べていた(笑い)。“早くこれくらい元気になれ!”という彼なりの励ましだったようです」
当時、福岡氏が自分のことより心配していたのは、同時期に肺がんを患っていたジャーナリストの故・筑紫哲也氏だった。
「筑紫さんは早大政治経済学部の先輩で、私の唯一の師匠。筑紫さんに『お前は手術できたからいいね。俺のがんは切れない』と言われたことがあった。そう考えると、私は運が良かったのかもしれません」