歳を重ねると食べ物の好みも変わるもの。若い頃のように脂っこいものは食べなくなった。食事の量も減った。そう自覚していた自営業の67歳男性は、30代の娘と食卓を囲んでいる時に注意されて、はっとした。
「ちょっとお父さん! 醤油かけすぎ!」
冷奴や卵焼きに醤油をかけ、さらにブリの照り焼きにもちょっと垂らそうとしていた。娘の驚いた顔を見て、「ようやく気がついた」と男性は振り返る。
「最近はわりと質素な食事をしていると思っていましたが、言われてみれば、糖尿病に気を付けていた50代の頃よりも、醤油やソースを料理にたっぷりかけるようになっていた。好きな味に調整するくらいにしか考えていませんでしたが、娘に指摘されて初めて、“味覚が変わってしまっているのかも……”と自分が怖くなりましたよ」
妻とリタイア生活を送る都内在住の70代男性も、最近になって自身の味覚を巡る異変に気が付いたという。
「味噌汁が最近どうも味が薄くなった気がして“もっと濃くしてくれよ”と伝えたんです。そうしたら妻がむくれながら“十分、濃くしています。あなたの舌がおかしいんじゃない?”と言う。私に言われて妻は味噌を少し足したり、油揚げを入れてコクが出るように工夫していたようです。“これ以上濃くすると私は食べられません。もう自分で作って”と怒られてしまいました」
実は、加齢とともにこうした“症状”を訴えるケースは少なくない。10年以上にわたり、延べ10万人以上の高齢者を診察してきた彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長で医学博士の平松類氏は、著書『老人の取扱説明書』で、高齢者は塩味を感知する能力が低下している、とする医学研究を紹介した。