9月22日付の朝日新聞の「声」欄に、ある生命保険会社が行った子育てを給与換算したらいくらかという調査で、男性の11.5%が0円と回答した結果が出たことに対して、「子育ての価値を0円だなんて」と憤慨する、62才主婦の投書が掲載された。
一方で、「育児をお金に換算するのはナンセンス」という意見もある。そこで前述のアンケートで「0円」と答えた女性が3.3%いたことに注目したい。
「彼女たちが『0円』としたのは、男性の“価値なし”という意味とは真逆の考えだと思います。なぜなら、育児の価値と大変さは“お金でははかれない、プライスレスなもの”だから。仕事のように成果が目に見えるわけでも、はっきりとした失敗や成功があるわけでもない。だけど目の前に子供がいたら世話をしたくなる、口を出したくなるのが母親だと思います」(10才の娘を持つ43才の母親)
「子育てのお値段」問題がここまで紛糾する背景に見え隠れするのは多くの母親たちが感じている「取り残され感」だ。
「女性の社会参画が進み、働く母親が増えた結果、男女平等のはずなのに、育児や家事は女性の負担が依然として重いのが現状です。そんな中で母親たちは『なんで私だけが大変な目に』と考えるようになってしまう」(小野寺教授)
それはキラキラしたイメージのあるママタレや女優たちも同様である。5才になる女児の母・木下優樹菜(29才)は自身の著書の中で、苦しい胸の内を明かしている。
《産んですぐこんなに働いて、帰ってきたら即、授乳だのお風呂だのやってるんだよ! 慣れない育児を一人で》
女優の小雪(40才)は忙しい夫・松山ケンイチ(32才)をよそに育児に励む日々を振り返り、「最初の1か月は疲れがひどくて正直、子供がかわいいと思えなかった」と語っている。
何の見返りも求めず、ただ無償の愛でわが子と向き合う。かけがえのない大切なものであることには違いないが、心身ともに摩耗することもまた事実だ。4才の娘を持つ35才の母親が涙ながらにこんな話をしてくれた。
「家事と仕事が重なって大忙しの中、夫は海外出張。『なんで私ばっかり…』と文句を言いながら料理していたら、子供が台所に入ってきて『ママごめんね』って言ったんです。ハッとして、『ママこそごめんね』と抱きしめました」
児童心理に詳しい目白大学の小野寺敦子教授が続ける。
「育児を金額に換算して多い、少ないなどと議論を交わすこと自体、子供から見れば悲しいことなのかもしれません」
育児労働を考えるとき、真っ先に思うべき子供が置き去りになっていることはないだろうか。もう一度「育児」の原点に立ち返って考えてみる必要がありそうだ。
※女性セブン2017年10月26日号