味に鈍感になる“症状”が気付かないうちに進行すると、重篤な病気につながるリスクがある。それが「味覚障害」の恐怖だ。
日本口腔・咽頭科学会の調査によると、1990年に約13万8600人だった味覚障害の推計患者数は2003年には約24万5000人と、ほぼ倍増している。さらに、本人が気づいていないだけで、もっと多くの患者が潜んでいると指摘する向きもある。
味覚障害の原因として最も多いとされるのが、「薬物性味覚障害」だ。厚労省が平成23年に作成した「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害」によれば、味覚障害のなかでも薬物性と考えられるものは21.7%で最も多い。味覚障害に詳しい東北大学大学院歯学研究科の笹野高嗣教授(口腔診断学)が解説する。
「味覚障害が疑われる患者を医師が診るときは、まず飲んでいる薬を調べることから始めます。若者よりも高齢者に味覚障害が多いのは、日常的にさまざまな薬を服用しており、高齢者に処方されることの多い薬の副作用として起きることがあるからです」
添付文書に副作用として〈味覚異常〉などと明記して注意喚起している薬剤は少なくない。
前述の厚労省の対応マニュアルでは、そうした副作用リスクのある薬剤として、降圧薬、消化性潰瘍治療薬、抗うつ薬、抗菌薬、抗がん薬などが挙げられている。さらに同マニュアルは〈亜鉛キレート作用(亜鉛の吸収を抑制する作用)のある薬や唾液分泌をおさえる薬に味覚障害が起こりやすいと考えられています〉と警告している。