「涙は涸れ果てたと思っていたけど、まだ溢れてくるんです。あの子が帰ってくるんじゃないかって、今でも寝ずに待ってしまう自分がいる。“怖かったね、もう大丈夫だからね“って、ひと言声をかけてあげたくて…」
嗚咽しながら声を絞り出すのは、萩山文子さん(77才)。居間の仏壇には、笑顔の好青年の写真が飾られ、線香が供えられている。写真の主は、文子さんの愛息、萩山嘉久さん(享年45)。6月5日、東名高速道路で追突事故に巻き込まれ、死亡した男性だ。
10月初旬、静岡県静岡市の自宅で女性セブンの取材に応じた文子さんは、あまりに惨惨な事故の全容と、亡き息子への悲痛な想いを語った――。
小雨が降り、視界の悪い夜だった。夜9時35分、嘉久さんと妻の友香さん(享年39)、長女・A子さん(15才)、次女・B子さん(11才)の4人を乗せたワンボックスカーは、神奈川県大井町の東名高速道路下り線の追い越し車線に“停まらされて”いた。
運転席には友香さん、助手席にA子さんが、後部座席には嘉久さんとB子さんが座り、目の前には1台のワゴン車が停車している。ワゴン車から降りてきた男性が、後部座席の窓を何度も叩く。同乗していた女性も後に続いて降りてくる。
ドアをわずかに開けた嘉久さんの胸ぐらを掴み、引きずり出す男性。友香さんが慌てて外に出た瞬間…。後ろから大型トラックが嘉久さんの車に追突した。
「嘉久さんと友香さんははね飛ばされ、それぞれ脳挫傷と内出血性ショックで死亡。車内にいた子供2人は奇跡的に軽傷で済んだ。嘉久さんを脅していた男性もまた軽傷で、ワゴン車に同乗していた女性も骨盤骨折の重傷を負ったものの、命に別状はありませんでした」(警察関係者)
事故当夜のことを、文子さんはこう話す。
「次の日は孫の学校があるから夜9時には帰るはずなのに、一向に帰らないので胸騒ぎがして不安で眠れませんでした。そうしたら、長男(※編集部注:嘉久さんは3人兄弟の三男)から『嘉久が事故に遭ったらしい』と連絡があって…。後のことはショックのあまり、記憶が定かではないんです」
憔悴しきった文子さんは病院に行くこともできなかったという。
「嘉久はB子の希望を叶えるため、お台場まで1泊2日で遊びに行ってたんです。出かける日の朝、ウチの玄関に車のなかで食べるお菓子や飲み物をいっぱい並べて、嬉しそうに『行ってくるね』って。まさかあれが最後の会話になるなんて…。4人の笑顔が忘れられません」(文子さん)
◆「A子の強さが捜査を動かし、真実の解明を導いた」
痛ましい事故は、4か月後に急展開を迎える。10月11日、一家の車の前に停車したワゴン車を運転していた男性、石橋和歩容疑者(25才)が過失運転致死傷罪で逮捕された。